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36話 エリゼの無邪気な好意の真実

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-11-21 06:00:43

 好みの男の子だから仲良く話をしていたんじゃないの? 邪魔しなくても良いのに……。レイニーの用件は別の者でも分かることだしさぁ……。レイニーは、心の中でぶつぶつと文句を並べた。

「わっ。お父さん! 何をって……ちょっとお話してただけだよ?」

 エリゼは、セリオスの剣幕に驚き、びくりと肩を震わせた。その声には、明らかに動揺の色が混じっている。

「レイニー様を放って置くとは……まったく……はぁ」

 セリオスは、大きくため息をついた。その目には、レイニーへの申し訳なさと、エリゼへの教育不足を感じているような複雑な感情が揺れている。

「あ、だから……大丈夫だってばぁー。他の者に確認をすれば良いことだしさっ。それじゃ!」

 レイニーは、この気まずい雰囲気の場所にこれ以上いたくない一心で、足早に立ち去ろうとした。セリオスが、俺とエリゼを仲良くさせようと思っているのか……? そんな考えが、レイニーの頭をよぎる。

「レイニー様、お待ち下さい。エリゼ、レイニー様がお話があるそうだ、来なさい」

 セリオスの声には、有無を言わせぬ強い意志が感じられた。

「エリゼ、俺は大丈夫だから……話を続けてて良いよ。さーて……」

 レイニーはそう言って、エリゼに遠慮するよう促した。だが、内心では暇を持て余している自分に気づく。エリゼくらいしか友達はいないし。あーちゃんが、いるけどねぇ♪

 セリオスが、エリゼの耳元で何かを小声で話すと、エリゼは途端に慌てる表情になった。その顔には、困惑と焦りの色がくっきりと浮かび上がっている。ん? どうしたんだ? 後でお説教だとでも言われたのか? この世界は階級社会で女性は政略結婚が当たり前みたいだし。俺と結婚すれば、第3王子とはいえ権力はあるしなぁ……そんな結婚はゴメンだけどなぁ。レイニーの心には、不穏な予感がよぎった。

 気になったレイニーは、あーちゃんに聞いてみた。

「な〜あーちゃん、なんて言ったか分かるぅ〜?」

「言ったことは分からないけど……心なら読めましたよ。えへへっ♪ レイニー様モテますねぇ……」

 あーちゃんの声は、どこか楽しげで、レイニーをからかっているようだった。

「それ、モテるっていうのかぁ〜?」

 レイニーは、心の中で反論した。どうせ、セリオスがエリゼにレイニー様に気に入られないとダメだろ!っとでも言ったんだろ〜。そう決めつけていた。

「人間の世界では、モテるということだと思いますけど?」

 あーちゃんは、あっけらかんとした声で答えた。

「あの慌てようならさぁ……『後でお説教だぞ!』とか言われたんでしょ?」

 レイニーは、半ば確信したようにあーちゃんに尋ねた。

「注意されましたけど、違いますね。エリゼは、レイニー様のことが大好きですね。セリオスもレイニー様が好きというか尊敬をしていますねぇ……。レイニー様がエリゼと一緒にいて嬉しそうにしていたので、少しでも喜んでほしいという気持ちを感じます」

 あーちゃんの言葉に、レイニーは目を丸くした。

「はい? それで、なんで慌ててるんだよ?」

「それは……分かりませんよ……。自分でお聞きになればよいかと〜」

 あーちゃんは、またもレイニーをからかうような調子で答えた。

「聞けないから、あーちゃんに聞いてるんですけどぉ〜っ! 政略結婚とか考えもあるんじゃないの?」

 レイニーは、焦れたように心の中で叫んだ。

「あぁ〜それは、あの二人からは感じられないですね。欲望が渦巻く感情は大好物なので……見逃さないですよ。そういった欲望は感じられませんでしたよ」

 あーちゃんの声には、確信がこもっていた。

「エリゼは、あそこの少年兵と楽しく話をしていて、俺が邪魔じゃないの? 俺といる時より笑顔だったぞ?」

 レイニーの心には、ほんの少しの嫉妬が芽生えていた。

「……楽しい感情もありますが、ただたんに笑い話をしていただけですよ。レイニー様に抱いている好きという感情は、あそこの少年には無いですよ。好きという感情も美味しそうですね……欲望の塊ですからね〜♪」

 あーちゃんの言葉に、レイニーは複雑な感情を抱いた。エリゼが、俺をねぇ……兄妹みたいな関係だと思ってたんだけどなぁ。レイニーは、エリゼとの関係性を改めて考え直した。

 その間にも、セリオスはジロッと少年兵を見つめた。その鋭い眼光に、少年兵はビクッと体を震わせ、慌てて姿勢を正し、金縛りにあったように動かなくなった。

「そろそろ訓練が始まる時間だぞ、そこで1日立っている気か? それは、それで良い訓練になりそうだな……許可するぞ」

 セリオスの声には、冷たい響きがあった。

「いえ、通常の訓練を受けたいです!」

 少年兵は、震える声で必死に訴えた。

「だったら戻った方が良いと思うがな……みんな隊長の元に集合をしているぞ」

 セリオスは、淡々と告げた。

「し、失礼します!」

 少年兵は、顔を真っ青にして慌てた様子でその場を去って行った。その足取りは、まるで追い立てられる小動物のようだった。

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